「路線価に基づいた相続財産の評価をし、実勢価格より大幅に評価額を下げること」が適正であるかが争われた訴訟について、最高裁での判決が2022年4月18日に下されます。
生前の相続対策として、遺産を現金から不動産に変えておくことは、大きな節税効果をもたらします。これは路線価を活用し「財産評価額」を下げる方法として一般的なものですが、この訴訟を機に相続不動産の立ち位置が変わってしまう可能性があります。
特に不動産業界や相続関連業界では、かなり注目される判決となりそうです。そこで今回は、事前にこの情報をわかりやすく皆様にご説明致します。
目次
- 「路線価否定した国税庁 相続課税」を巡る訴訟の内容とは
- 訴訟の背景1「相続税評価の問題」
- 訴訟の背景2「相続対策としての不動産転換スキーム」
- 「国税庁の課税」の問題点
- 「地裁と高等裁判所判断」の問題点
- 「法律の規定通りに申告した納税者」最高裁の判決は
- 判決次第で「相続税対策」が成り立たなくなる?!
- まとめ
1.「路線価否定した国税庁 相続課税」を巡る訴訟の内容とは
1-1.相続財産13億8000万円の相続税がゼロ?!
原告は、被相続人(亡くなった方)が銀行から融資を受け、購入した不動産の相続人になります。
被相続人は、東京都内のマンション1棟と、神奈川県内のマンション1棟、合計2棟を13億8000万円で購入しました。その後亡くなり、今回の原告が、遺産として不動産を相続することになります。
相続人は路線価に基づき3億3000万円と評価し、銀行からの借入金もあるため、それを相殺。その結果、0円となり、相続税0円で申告をしました。
1-2.国税庁が路線価を否定?!
この申告を、国税庁は『不動産鑑定』を基に12億7000万円と評価し、約3億円を追徴課税しました。
「被相続人(亡くなった方)が購入した価格は2棟で計13億8700万円、路線価での評価額3億3000万円では、あまりにかけ離れた価格となるため、路線価に基づいた評価額は適正ではない」という判断によるものとのこと。
これに対して、原告側は「路線価で正しく評価したので問題ないし、私だけ恣意的に課税されて納得いかない」と主張。不当だとして訴訟を起こした、というものです。
2.訴訟の背景1「相続税評価の問題」
訴訟の背景として、まず相続税の評価の仕組みに問題があります。相続税の評価は、それぞれの財産に応じた評価がなされますが、相続税評価の仕組みは、現預金や有価証券と比較すると、不動産は路線価を基に計算するため実勢価格より相続税の評価額が低くなります。
たとえば、1億円の預金を持っているよりも、時価1億円の不動産を持っている方が相続税の評価額が低くなるというのが一般的です。
時価1億円の不動産というのは概ね7,000万円以下の相続税評価額になり、都心の人気エリアなどの場合、時価の30%になる場合もあります。この場合だと、評価額が3,000万円になるということです。
3.訴訟の背景2「相続対策としての不動産転換スキーム」
現預金をなるべく減らすため、評価額の低い不動産を購入しておく事は、合法的な方法として一般的に行われている相続対策です。
1億円の現金を持っている人が、1億円の不動産を購入すれば7,000万円以下に相続税評価額を目減りさせる事ができる、これは合理的な判断と言えます。
4.「国税庁の課税」の問題点
相続税の申告について、規定上は土地は路線価で、建物は固定資産税評価額等の合理的に算出された価格で出すのが一般的です。
一方、課税した国税庁は路線価と実勢価格に著しい開きがあり、客観的な価値を示していない。また、路線価の画一的な評価では税負担の公平を害すると主張。不動産鑑定を持ち出して課税しました。
私見ではありますが、何が問題かと言えば、国税庁が相続税の申告の際、規則の上で認められている路線価による評価ではなく、不動産鑑定評価を唐突に出してきたことだと思います。
不動産投資をする納税者側の立場からすると、税法に書かれているルールも、実務で取られている通説的な手法が確立されているので、それに基づいて申告すれば問題無いと考えるのが普通です。
それが、"国税庁の側が民間が提供している不動産鑑定の鑑定書を持ち出して課税する・・・"ここに論理の破綻を感じます。
路線価は、国税庁や、国の側が提供する物ですので、国の提供する基準を信じて申告した納税者が不意打ちを食らったと考えるのは当然かと思います。
5.「地裁と高等裁判所判断」の問題点
2019年8月の東京地裁の判決は国税庁側勝訴で2020年6月の高裁判決も地裁の判断を維持。
「地裁と高裁の判断」何が問題か?
では、地裁と高裁の判断は何が問題なのでしょうか。
それは、今まで世間で積み上げられてきた税法に基づいた正当な相続対策的な取引の多くが否定されてしまう。また、相続税の納税に関しての予測可能性が著しく低下してしまう。といったことです。
そもそも論で言えば、路線価は、相続税の評価をすることを一つの目的とした価格であって、それを基に相続の実務は行われてきました。
路線価を提供してきたのは、国税庁だったり国の側であり、それに従っていたのは納税者です。
本事案は租税法律主義の理想からは大きく外れた裁量権の乱用にあたるのではないでしょうか。
6.「法律の規定通りに申告した納税者」に対する最高裁の判決は
日経新聞の記事でも報じられていますが、今回最高裁が弁論の機会を設けたのは地裁・高裁の判断に修正をかけるのではという事です。
一見、13億円もの時価総額の資産を相続しておいて相続税ゼロは無いだろという考えをお持ちの方もいらっしゃるかと思いますが、法律の規定通りに申告した納税者が不当に扱われるのもどうかと思われます。
4月18日の最高裁の判決では、その判断が翻るのか、否かが注目されています。
7.判決次第で「相続税対策」が成り立たなくなる?!
判決後の国の対応は?
もし、国税側敗訴となった場合には、今回の事例を基に法律の整備等が行われるのではないかと思います。
そうなると、今までの様に「相続資産はとにかく不動産に変えておく」といった相続税対策が成り立たなくなるかもしれません。
まとめ
今回は2022年4月18日の最高裁で判決が下る「路線価に基づいた相続財産の評価をし、実勢価格より大幅に評価額を下げること」が適正であるかが争われた訴訟について、不動産を所有している立場から書いてみました。判決後、どの様なルール変更となるのでしょうか。
因みに富裕層の方は、相続税が大きくなるため、現金から不動産に変えておくことで節税対策としてとても効果的です。ですが、多額の相続税を支払う必要がない場合は、むしろ分けにくい不動産を現金に変えておく方が現実的かもしれません。相続財産が自宅だけといった場合、そこから相続争いに発展してしまうケースが多いからです。
相続対策は大きく分けると「税金対策に力を入れた対策」か、「相続問題回避の為の法務対策」かによって両極の方法を選択することになります。
リースバックの場合、住みながら自宅を現金化しておけるため、相続に限らず老人ホームの資金確保や、老後の生活資金として活用するなど使い道は自由です。また、リースバックは上記の選択で分けるなら「相続問題回避の為の法務対策」となります。もしもの時、子供世代を困らせない生前対策の1つと言えるでしょう。